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快楽の支配者

相馬倉庫の情報システム部に勤めるサラリーマンの能代聡(のしろ さとし)は週末になると相手を探すためにハッテン場に出かける、ある日聡はそのハッテン場で意外な人物を目にしてしまった。

会社の同じ部署に転職してきたばかりの澤崎譲(さわざき ゆずる)だ。仕事は出来るが協調性がなくとっつきにくいと言う印象の強い澤崎が、セックスの時には従順だと言うことを知った聡はそのギャップに強く惹かれ、何時の間にか恋人同士の様な付き合いをするようになった、付き合いが深まるにつれ譲の態度に妙な違和感を感じ始めた聡がそれを強く問い正すと、譲から思いもよらない告白を受ける事になる…。

「私はマゾヒストなのです――」

余りにも衝撃的なその告白に聡は戸惑い苦悩する、そして、それに強く抵抗を感じながらも「自分を支配してくれる相手が欲しい」という譲の言葉にその関係を受け入れようと努力するのだが…。

SM物第4弾です、WEBCLAPで「キャンディ、誓約のうつり香、窓と来てこのままSM物にはまってしまうのでしょうか…」と呟いていたら、暁由宇さんのこの本を教えていただいたので思わず買ってしまいました。どうやら自ら嵌る方向に向かって歩を進めているようです(笑)

この本を一言で言い表すと「新米サディスト、愛と苦悩の物語」かな?(笑)
SM物というとその作品内容の殆どはM側の視点で書かれている物が多いように思います、多分そちらの方がいろいろネタになる部分が多くて書くほうも書きやすいからなのでしょうね。なのでS側の視点と言う少し変わった角度からのストーリは色々興味深い内容でありました。

とは言え、Sの視点で書かれているのは書かれているのですが、主人公の能代聡は譲と関係を持ち始めた当初自分がサディストだと言う自覚はありませんでした、一般にSM物として多く見かけるのはマゾヒストの人間がサディストの人間に性癖を暴かれ調教されていくという話だとは思いますが、これはその反対です、あらすじの一部を抜粋すると「MによるS育成ストーリー」と言う事になっているのですが、育成と言うよりもSの要素を持ち合わせている人間が、自分はマゾヒストだと告白してきた恋人と係わる事によって、自分がサディストの傾向を持ち合わせていると言う事に気づき、苦悩と葛藤の中それを受け入れて行くまでのストーリーという感じです。

譲はおおっぴらに行動を起こすわけではなく、ちょっとした言動の変化だけで聡をそこに導いているだけなのですが、導くと言う事が育てると言う事に繋がるのだとしたらやはり「育成」と言う言葉がぴったりということになるのでしょうか。

能代聡は譲と付き合う中で支配欲、嗜虐性は持ち合わせいていることは認識しはじめるものの、過去のトラウマから暴力を振るう事に対しては拒否感が強くいので、譲の本来望む二人のあり方と自分の中のSMプレイへのギャップを感じ、そのあたりで悩み苦しみます、もしかして自分は譲に嵌められてしまったのではないかとまで思ってしまったりもするのですね。

こういう問題は自分の性癖を告白する方にもかなりの勇気がいるのだと思いますが、相手がそれと対ずる性癖の人ならまだしも、そうでない場合受け入れる側にもかなりの覚悟が必要なのだなという事を改めて思い知らされたような気がします。

最初は普通のリーマン物と言う雰囲気で始まって、譲の告白によって抵抗は感じつつ形からSMの主従関係へと以降していくうちに、二人の関係が深くなるにつれて能代の悩みや苦悩が深くなっていくので、決して明るい話とは言えないのですが、この話を読んでいると支配する立場のサディスト側にもやはり人並みの感情や苦悩はあるのだなと、人間味みたいな物が感じられるのが良かったです。

ストーリーのメインは聡のSM行為に対する苦悩と葛藤と言う事になるのだとは思いますが、プレイの描写と二人の感情の流れと仕事上での二人の関係と、オンとオフの書き分けがあまり無理なくしかも万遍なく話の中に組み込まれている事や、二人の視点が交互に現れたりもするので二人の微妙な感情のずれとかお互いに対する想いとかが分かり易く私的にはかなり満足度の高い作品でした。

この本を紹介してもらった後、別の方から暁さんのサイトでも「Refrain」と言うタイトルでSMカップルの話を連載されてますよと教えてもらったので、最近ちょくちょく通っているのですが、あれは良かったです、どういう風に伝えたら良いのか、言葉も無いと言いますが、まさしくそんな感じです。1部の最終話では泣いた泣いた(笑)
胸が締め付けられるくらい切なくて…。

あれ?なんだか気が付けば思い切りまじめな感想になっちゃったな縲鰀(笑)

快楽の支配者
快楽の支配者

posted with 簡単リンクくん at 2005. 9. 2
暁 由宇著
雄飛 (2001.6)

快楽の支配者
Amazon

Comments:6

suzuya 06-05-07 (日) 8:56

こんにちは、おひさしぶりです縲怐B
久しぶりにSMモノを読んで、改めて自分の嗜好と向き合ったsuzuyaです。
昨年のSM祭りで「何故この本を読まなかったんだろう」と悔やまれてならないほど、ツボにはまるお話でした。
苦悩する初心者Sの能代が可愛くて、私も「こんなご主人様を調教したい」と思ってしまいましたよ。
TBさせてくださいねv

Jura 06-05-07 (日) 19:44

suzuyaさんこんばんは
この話はなんていうか、結構まじめに 考えさせられますよね。
珍しく感想が長くなって2冊一度に書くことが出来ませんでしたよ。

>苦悩する初心者Sの能代が可愛くて、私も「こんなご主人様を調教したい」と思ってしまいましたよ。

あーなんかその気持ち判る気がします縲怩アんなご主人様なら私も欲しいです。
自分好みの「M」に仕立てる話なら数多くありますが自分好みの「S」に仕立てる話なんて早々ないですものね。

コメント&TBありがとうございます
こちらからも後ほどさせていただきますね。

ではまた!

秋月 06-05-17 (水) 23:41

Juraさん、こんばんは。

私はもともと数年前に友人から、暁さんのサイトのSMカプの小説のほうを勧められてたんですが(そのときに、脇役カプが主役の本があるとも教えられました)、SMは苦手!といって読まなかったんですね。
今頃はまったやなんてとても言えないので、こっそりと感想を吐き出してみたらあんなに長くなりました…(笑)

確かに、MによるS育成ストーリーというのは間違ってないけど、ちょっとずれてますよね。MによりSだと自覚させられたSの、葛藤と受容の物語です。
私もS視点の話を読むのはたぶん初めてだったので、とても興味深く面白く読みました。
こんなに考えさせるなんて、SM小説もたまには読んでみるものですね。

TBお返しさせてくださいね。

Jura 06-05-18 (木) 0:17

秋月さんこんばんは

>暁さんのサイトのSMカプの小説のほうを勧められてたんですが

暁さんはもともとネットでのBLサイトから商業の世界に入った方みたいですものねネットから商業って暁さんに限らず最近は結構多い気もしますが……。

>確かに、MによるS育成ストーリーというのは間違ってないけど、ちょっとずれてますよね。

そうなんですよね、全然間違ってるっていうわけでもないけど少し違うかな?と読んでみておもいました、譲は能代の嗜好を気づかせているけど、育てているわけではないと思うので育成とは違うんじゃないかなと…。

でもこれ読んでみると、自分で考えていた以上にまじめな話だったので私も感想がやたら長くなってしまいましたよ(笑
秋月さんの続編の感想も楽しみにしてますね。

コメント&WでTBありがとうございました
では!
では

にゃんこ 06-07-06 (木) 11:42

Juraさん、こんにちは。

SMということで、痛いの好きな私は今まで色々読みましたが、こういった切り口の作品は初めてでした。
MがSを調教する話はよくありますが、逆のパターンもあるのだと、当たり前の事なのに全然頭になかったです(^_^;)
自分を振り返ってみると、確実にSなので(性癖とまではいきませんが、性格的に)、やたら澤崎に共感する部分があり、かなり考えさせられました。
Mになるより、Sになるほうがハードルが高いんじゃないでしょうか。
そのハードルを感じないようなSの行為は、ただの暴力になんじゃないですよね。

>人間味みたいな物が感じられるのが良かったです。
M調教モノでは、Sの葛藤は出てこないですから、こうやってSの人間味を感じる事が出来てSに愛着湧きました(笑)

それでは、まとまりのない文章ですみません。
TBさせていただきました!

Jura 06-07-16 (日) 12:06

にゃんこさんこんにちは縲彌nコメント遅くなってごめんなさい
なんかもう全然こっちに手をつける気持ち的余裕がなかった…orz

SMもの私、それほど多くのSM物作品を読んだことはないのですが、ほとんどMの視点で書かれている作品が多いですよね

Sの苦悩、葛藤はあまりわからないのでこの話は結構新鮮でしたよ。、このお話はどちらかというと人間臭い部分が良かったです。

コメント&TBありがとうございます
遅くなってほんとごめんなさいね縲彌n
ではでは

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快楽の支配者 from 詞の音
trackback from plastic-paradise 06-05-07 (日) 8:50

快楽の支配者

【快楽の支配者】【罪深き誓約】
暁由宇 / 九条えみり
(アイノベルズ)

「おまえ、おれをはめたんだろう?
 おれのこと見抜いていたから、声かけてきたんだろ?」

澤崎は笑った。
初めてハッテン場で聡に笑いかけたときと、同じ笑顔だった。

「見抜いていたなんてことはありません。
 私はただ、支配されたいと願っただけです」

澤崎と自分の決定的は違いは、それを受け入れているかどうかだ。
澤崎はきっと、堕ちていくときも笑っているだろう。
後ろめたさや引け目といった否定的な感情など、欠片ほども抱かずに。

【あらすじ】
『快楽の支配者』
職場では、協調性がなく傲岸不遜な態度の沢崎譲。だが、そんな彼がセックスでは従順だと知った能代聡は、そのギャップに強烈な魅力を感じ、彼と恋人として付き合い始めることに。ところが、付き合いが深まるほどに、何か違和感のようなものを感じた聡がそれを質すと、譲は、それまで隠していた性癖を明かした。「私は、マゾヒストなんです」―あまりにも衝撃的なそれに、聡は戸惑い、苦悩する。そして、抵抗を感じながらも、主従関係に愛を感じるという譲のため、『SMセックス』に踏み切ったが…。

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『罪深き誓約』
長い間探し続け、ようやく見つけたご主人様―それは嗜虐に抵抗のある「S」だった。普段は傲岸不遜な「M」の譲は、そんな彼・聡に申し訳なさを覚えつつも、やはり支配されることを望んでしまう。自分を罰しながら昂揚していくときの彼はとても魅力的だったし、譲はそのすべてを愛していたから…。「私は、聡さんの快楽に仕えるために、いるんです」譲はそれまで何度も口にした言葉を、その夜も繰り返した―。話題を呼んだMによるS育成ストーリー『快楽の支配者』、待望の続編。

罪深き誓約―Rough Trade〈2〉暁 由宇 / 雄飛(2002/01)Amazonランキング:480,989位Amazonおすすめ度:Amazonで詳細を見るBooklogでレビューを見る by Booklog

【ココがツボ!】
 というわけで、SMです!ええ、SMですとも…!
 皆さん、既にご承知のとおり、私、SMが大好きです。このブログでも昨年夏の「夏の太陽が私を狂わせるの…ビバ!SM祭り」では、ひちわゆかさんの「キャンディ」、秀香穂里さんの「誓約のうつり香」、水原とほるさんの「窓」、吉田珠姫さんの「石田氏シリーズ」、などなどのSMモノの作品を熱く(ってか暑苦しく)語っていたりします。

 ただ、上に挙げた作品、どれも「SがMを調教して、ご主人様好みの奴隷に仕立て上げる」という趣向なわけですが、今回取り上げます「快楽の支配者」では

「MがSを調教して、奴隷好みのご主人様に仕立て上げる」

という、いつもとは逆パターンの調教がテーマになっております。

 この本の煽り文句も素晴らしい

「秘密の快楽。Mによる、S育成ストーリー!」

いやぁ、そのまんまなんですけど(笑)すごく面白い作品ですよ!(諸手を挙げて大絶賛!)「痛いのはちょっと…苦手」とか「ご主人様と奴隷の芝居めいたやりとりが笑えて駄目縲怐I」といった方にも、是非お勧めしたい一冊です!

ネタばれアリの感想という名のSM語りは以下です縲彌n(SM嫌いな方はご覧にならない方が無難かもしれません)

キャッシング & ローン

trackback from 月と凌霄花 06-05-17 (水) 23:31

『快楽の支配者』

快楽の支配者

 暁由宇/九条えみり
  雄飛アイノベルズ 2001.06
SM小説というと、元からSとMの出来上がった二人が登場する話より、既にS・Mである相手に見出され、S・Mの自覚を持たされ調教されていく話が一般的ですが、これもSによって見出され、M=奴隷に仕上げられていくという傾向が強いと思います。この作品ではその逆で、すでに経験も豊富なMによって、理想的なご主人様として育成されていく男の葛藤がメインとなっています。

暁さんの『快楽の支配者』『罪深き誓約』、剛しいらさんの『教授の密かな愉しみ』『教授の華やかな悦び』と、SM風味のBLをここのところ続けて読んだため、ただ今SMについて考えるところのある秋月です。SとMの関係性について、ひとり考えてみたりしましたが、行き着いた先は、「SはMの被虐の快楽に奉仕し、MはSの嗜虐の快楽に奉仕する。双方向性のそれこそが最も望ましいSとMの関係」であるという結論でした。相手の求めるものを的確に把握し、それに応えていく。それは所謂、「普通」のパートナシップにおいても、しごく基本的なルールです。つまりSMというのはただの性格・性質であり、それほど特別視するほどのことではないのではないのでしょうか。とはいっても、今まで自分を「普通」だと思って生活してきた人間が、あるきっかけで、自分がSあるいはMだと自覚し、それを受け入れていくまでには少なからざる葛藤があっても不思議ではありません。

職場の人間関係に頭を悩ませていた能代聡は、週末の楽しみである好みの男を探しにハッテン場へとやって来たが、そこで頭痛の種である男と出会う。澤崎譲。澤崎に誘われ関係をもった能代だが、協調性がなく傲岸不遜な態度が鼻につき社内でも浮いた存在の男が、普段のとりすました仏頂面ではなく、思い切り淫らな顔を見せることに能代は驚く。二人は都合がつけば体を重ねたが、能代の好きにしていい、言うとおりにすると繰り返し、セックスのときには妙に従順な澤崎の姿に違和感と少しの不信感を覚えている能代は、二人の関係について見直すため、澤崎の意向を訊ねる。すると、澤崎はそれまで隠していた性癖と、能代のことを好きだという気持ちを明かした。
 「私はマゾヒストなんです。私にとって、『好き』ということは、
  相手に『隷属したい』ということなんです」
衝撃の告白に戸惑いながらも、能代は澤崎に感じている情と、未知の領域への好奇心から、澤崎の望むSMセックスに踏み切る。それは能代にとって、新しい自分の発見であるとともに、隠れていた本来の自分を再確認していく作業でもあった。

SMというと、なんだか特別な世界のことのような気がして、なじみのないものだったのですが、普段の生活でも「私ってマゾだしぃ縲怐vと気軽に口にしたりするように、誰しもサディスト・マゾヒストな一面が備わっているもので、まったく理解できない話でもないわけでした。ただ、この作品は、妙にリアルにSとMの内面の葛藤を描き出しているので、SMとかいう以前に痛い話がダメな方はちょっと辛いかもしれません。どうしてもSMに嫌悪感のある、という方はお読みにならないほうがいいかと思います。
しかしもし少しでもSMに興味があるという方は、お遊び的なSMプレイが主体ではない、しっかりとキャラの内面に踏み込んでいく切り口に、きっと満足できる作品だと思うので、こっそりお勧めいたします。「SMなんて苦手…」と思っていた秋月が、一週間もSMについて考え続けています。仕事中、夜眠る前、ぼーっとしているとき。SMって何だろう…、BL小説で深いところまで考えさせられるのって、癪ですが面白いです(笑)

SMというと、SがMをいたぶり、痛めつけ、傷つけるという姿がまず思い浮かびます。それは様々な器具を用いて行なわれる、いわゆるSMプレイと呼ばれるもののイメージです。SはMを痛めつけ、Mはその痛みに酔い痴れる。そんな単純な図式しか想像できない私には、ではSMプレイをしていないときのSMカップルはどうしているのか?という疑問がありました。もちろんSMカップルといえども普通の人間ですから、会社勤めをしたり普通の友人関係をもったりしているはずです。つまりまあSMプレイをしているとき以外は、ご飯を作ったり食べたり一緒に買い物をしたり映画を観たりドライブをしたり、普通のカップルと変わらないんでしょうね。
では、SMカップルと他のカップルとでは何が決定的に違うのか。それは愛情の表現方法です。一般のBLカップルは(この表現…/笑)、男同士ということで基本的に相手と対等の立場に立とうとします。年齢や身分や地位の違いがあっても、同性ということで相手に負けたくない、相応しくありたいと望むものです。しかしSMカップルは、最初から明確に「支配者と被支配者」とに分けられています。もちろん、これはかたちとしての「支配者と被支配者」であり、SとMに優劣があるわけではありません。
作中で澤崎は、能代に支配されることが最終的な望みだと言いますが、その際にも、他人を支配することで相手より優れていると思い込むのは浅はかな考えだとことわり、そのようなSは受け入れ難いものだと明言しています。Sの行為を受け入れるMの受け口がなければ、SM関係は成り立たないものなのです。また澤崎は、いきなりSMと言われて戸惑う能代が、乏しい知識のなかで「それっぽいプレイ」がしたいことかと訊ねると、プレイは目的ではなく、自分を支配してくれる相手が欲しい、お互いの関係を確認するための手段がプレイであると説明します。
プレイは関係を認識するための手段だというくらいだから、プレイを取り除いたときに残る精神性が、SとMの間を取り持つ関係の核となるはずです。しかし、プレイがなければSがMを支配し、MがSに対して服従する姿勢しか残らないように思える。そして姿勢というものは、明確なかたちを示しにくいもの。だからこそプレイは必要になってくる。

実際にそこに優劣があるわけではないが、他に適当な語を思いつかないので代用すると、SがMに対してもつ優位性を明確に具体化するのに、プレイは最も有効な手段ということになります。しかしSとMはお互いが存在しなくては成立しない関係が前提なので、SがMに対して一方的に優位であることは本来ないはずです。だからこそ、一見SがMをいたぶっているようにしか見えないプレイの場でも、SとMの間には、お互いにだけ通じるルールがある。どこまでが許され、どこからが許されないか、どのような行為にも、互いの間に行き交う愛情があるべきなのですね。
能代は新米Sとして、それなりの経験を積んでいるMである澤崎の求めるものを見極めようと、プレイを試したり、SMパーティーに出たりするなど、澤崎との関係をより良いものにしようと努めます。
私自身は、いくつかの(信頼できるものではありませんが)SM占いやSM診断を行なった結果、ノーマルの範囲内ですが、どちらかというとSっ気があり、また場合によってはMにもなり得るとの判定でした。ちなみに受け攻め度チェックでは受け寄りのリバでしたから、私は相手によって自分を変えられる人間だということです。主体性がないとか言わないでくださいね?
なぜここで自分のことを言ったかというと、このお話を読む際に、私がどちらに感情移入したかということを説明するためです。
私は、新米Sである能代に同調しました。それは自分にSっ気があるということも理由かと思います。
澤崎がMであると告白し、能代にSとしてご主人になって欲しいと願い、様々なプレイを試みる。そんな過程で、元来他人に暴力的な衝動を抱くことをタブーだと感じている能代自身にかかる抑制と、澤崎の「もっと酷くして欲しい」という言葉がはたして本心なのか否なのかの見極めの難しさとで、どこまでやってもいいのか、澤崎は本当にそれを望んでいるのだろうか、と、能代になりきったかのように思い悩んでしまいました。そしてまた、けっこう酷いことをしてしまった能代のことを、こんなことまでして澤崎は嫌いになったりしないのだろうかと、気を揉んだりもしました。

能代は、初めてつきあった男との破局で残ったしこりや、父親と母親の関係など、過去のトラウマによって暴力を激しく否定して生きています。それは裏返せば、自分自身の嗜虐性に薄々は気づいていながら、それを第三者の目から見たときどう映るかということを認識しているために、そうあってはならないという強固な抑圧がかけられている状態です。
そんな状態で、自分自身のS性を解放してもよい場面をぽんと与えられても、すぐには受け入れ難いことでしょう。暴力は駄目だ、最低なことだと戒めているのに、目の前には何をしてもいいのですよと白い腹を見せて、澤崎が横たわっているのです。それはとても甘美な魅力を放つ誘惑であり、また自分を試される悪魔の試練でもあり。
この話は、能代の心の重責を解き放ちSとして歩み出す葛藤がメインの物語ですが、最高の主人を得た澤崎の歓びを綴ったものであり、つまるところ、互いに最高のパートナを得た二人の幸運な物語です。もしも澤崎と出会うことがなければ、能代はSとして目覚めないままだったかもしれない。けれどそれは心の闇を抱えたまま生き続けることに他ならない。また、Sという枠にはまらないままで、単なる暴力性だけを目覚めさせてしまったかもしれない。しかし、他人を痛めることで快感を得るのは、相手の同意がなければ犯罪性を持つことがあるので慎重になるべき性質です。だから能代はやはり幸運だったとか言いようがない。隷属すべき主人を得た澤崎の満足よりも、こちらのほうがきっと切実だったのではないかと思える。

能代にとって澤崎は、単なる自分の攻撃性を吸収してくれる緩衝材ではありません。Sによって痛められる側であるMは、被虐の悦びとともに、自分を痛めつけることで快感を得るSの快楽を想像することで、倍の歓びを得ることが可能です。その澤崎の歓びが存在することをはっきりと知ることで、能代は救われている。SとMとは全く正反対の性質のようだが、それは対応するゆえに互いの方向性を理解しやすい。嗜虐と被虐は、相手の快楽が自分の快楽だという考えの上に成り立つから。
色々と書いてみましたが、そろそろ収集をつけないといけませんね。ひさしぶりのこの長文、秋月の本領発揮かという気がします。しかもSM関係について云々するばかりで、肝腎の本文についてあまり触れていないあたりが愛嬌です。

この作品はSとMの出会いからその結びつきが強固になるまでを描いた、どちらかというと精神性の高いSM小説ですが、だからといって日常が置き去りにされてはいません。能代と澤崎は同じ職場に勤務し、澤崎が周囲に溶け込まず孤立しているために能代が間に立って調整役として働くという、リーマン物としての側面も持ち合わせています。日常と非日常の対比というだけでなく、実はもう少し踏み込んだ意味合いをもっています。
二人が勤務するのは、同族的な企業で社員の結束が強い職場です。澤崎は新プロジェクトのために外部から引き抜かれて来たいわゆる外部者で、旧態依然とした職場に新たな改革と摩擦とを持ち込む存在です。これを二人の関係に置き換えると、代わり映えのなかった能代の日常に突如として入り込んできたMである澤崎、ということになりますよね。徐々に新システムへの移行が進んでいく職場は、そのまま、Sである自分を受け入れ新しい自分に目覚める能代です。
そういう面でも、うまい構成だなと感じました。暁さんの話は初めて読んだし、SM物もそれほど数はこなしていませんが、精神論的SM話は、けっこう好きな自分に気づかされました。能代が最後に、自分のことSだと見抜いていたからはめたのだろうと澤崎に質していますが、私は見事にSMにはめられました。はめましたね、暁さん?

trackback from にゃんこのBL徒然日記 06-07-06 (木) 16:55

快楽の支配者

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おぉ、なんだこれ、ちょっと新鮮。
MがSを育成するお話です。
勉強になりますね。
そうか、これがSMなのね。
こむ〓ト、〓トヲト・ケ(〓)

トウト氏ャトイЬ〓ト〟ャト、〓トケト・〓〓ナオナ・」ナケナ・Цト・ャ〓ト氏ャ〓Wトォト格(〓)
SM〓ト案、トヲト案スト氏ャ〓〓〓ト射估夏舟|ト氏ャナ€ト〟ャトォ〓ト・、トォ〓〓ツソト、トィトヲト求ャト、ト榮ケbツソ〓トスト・ゥト氏ャ〓ト、〓ト、〓ナ香ャト尭監ォ〓〓〓ツソトット・ャトット崙ヲト「”

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